1.獄中シェイクスピア劇団(マーガレット・アトウッド)
世界のベストセラー作家がシェイクスピアの名作を語りなおすシリーズの第1弾が、『テンペスト』の現代版である本書です。精霊エアリアルや怪物キャリバーンを従えて孤島で復讐心を燃やすプロスぺローに相当するのが元舞台監督のフェリックス。腹心の部下に裏切られて名門劇団から追われ、亡き愛娘ミランダの存在を夢想し続けるフェリックスは、受刑者の劇団を率いて復讐の時を待ち続けるのですが・・。『テンペスト』は単なる復讐劇ではなく、物理的・精神的な「牢獄」から解き放たれる物語でもあるのです。
2.三体X 観想之宙(宝樹 バオ・シュー)
空前のスケールで宇宙の終末と再生を描いた『三体シリーズ3部作(劉慈欣)』の終了ロスに耐えかねて、当時学生であった著者が「本編の空白部分とその後」について勝手に書きあげた作品です。決して続編ではなく、ありえる解釈のひとつにすぎないとのことですが、後に劉慈欣から公式外伝として認められたのこと。強引な点も目立つものの優れたSF作品として成立しています。本編で脇役にすぎなかったAAの過去や、本編ラストに再登場した智子の正体を描いた個所は、とりわけ秀逸です。
3.ビラヴド(トニ・モリスン)
元奴隷の母親セサと幼い娘デンヴァ―が住む家に現れた「愛されし者」と名乗る若い女性は、かつてセサが絶望の中で手にかけた赤ん坊の生まれ変わりなのでしょうか。横暴に振舞う女性に対して献身的に尽くすセサは、やがて狂気に取り込まれていくようです。過去の痛みと正面から向き合わない限り、痛みは亡霊となって繰り返し襲ってきます。そしてそれは、周囲の人々や後の世代にまで引き継がれてしまうのでしょう。ノーベル文学賞を受賞した最初の黒人女性となった著者の代表作です。
【次点】
・興亡の世界史17.大清帝国と中華の混迷(青柳正規編/平野聡著)
・時間はだれも待ってくれない(高野史緒/編)
【その他今月読んだ本】
・旅は道づれきりきり舞い(諸田玲子)
・紅霞後宮物語 第14幕(雪村花菜)
・紅だ!(桜庭一樹)
・無月の譜(松浦寿輝)
・ミルクマン(アンナ・バーンズ)
・SWITCH 鬼滅の刃 誌上総集編(SWITCH編集部)
・蔦屋(谷津矢車)
・わたしのペンは鳥の翼(アフガニスタンの女性作家たち)
・九十九藤(西條奈加)
・月ノ石(トンマーゾ・ランドルフィ)
・闇祓(辻村深月)
・ダンバー(エドワード・セント・オービン)
・砂嵐に星屑(一穂ミチ)
・火葬人(ラジスラフ・フクス)
・興亡の世界史18.大日本・満州帝国の遺産(青柳正規編/姜尚中著)
・極めて私的な超能力(チャン・ガンミョン)
・光を灯す男たち(エマ・ストーネクス)
2023/2/28