りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2023 My Best Books

2023年に読んだ本は288作品。平均よりも少し多かったかな。じっくり腰を据えて読むべき重厚な作品から、軽妙な作品まで、幅広く読んだ印象です。ともあれ、今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみましょう。

 

・長編小説部門(海外):『鏡と光(ヒラリー・マンテル)』

ヘンリー8世の寵臣として、イングランド宗教改革絶対王政の確立に大きく貢献したトマス・クロムウェルの生涯について、正面から向き合った3部作の最終巻。平民出身ながら国王の信頼を得て数多くの改革を成し遂げた有能な廷臣は、なぜ寵愛を失って没落してしまったのでしょう。当時の複雑な国際・国内情勢も丁寧に描かれています。

 

他の候補は、「シェイクスピアを語り直すシリーズ」の第1弾である『獄中シェイクスピア劇団(マーガレット・アトウッド)』、現代アメリカ文学巨匠の初期傑作である『黄金虫変奏曲(リチャード・パワーズ)』、フィリピン人作家による米比戦争をテーマとしたメタフィクション『反乱者(ジーナ・アポストル)』、色の白い黒人が受ける二重差別問題に取り組んだ『ひとりの双子(ブリット・ベネット)』、世界大戦前後のニューヨークで新しい生き方を目指した女性を描いた『女たちのニューヨーク(エリザベス・ギルバート)』など。

 

・長編小説部門(日本):『地図と拳(小川哲)』

満洲の架空の都市の半世紀にわたる興亡を通して、戦争に至る構造を描いた大作です。「地図」は理念を、「拳」は暴力を象徴しているのでしょう。類稀なる先見の明を有して日中戦争・太平洋戦争を回避する道を探り続けた主人公は、なぜ理念を放棄するに至り、その後はどのようにして未来に関与し続けたのか。満州国という異物の失敗の歴史を一種のSFとして描いた、未来に向けた警鐘の書です。

 

他の候補は、実父・井上光晴瀬戸内寂聴の不倫関係を、寂聴と妻・郁子の視点から描いた衝撃作『あちらにいる鬼(井上荒野)』ミソジニーの温床を幼少期のネグレクトに求めた問題作『砂に埋もれる犬(桐野夏生)』、母校の創立者・河井道の生涯をエンタメ作品として昇華させた『らんたん(柚木麻子)』、同郷の釧路出身のカルーセル麻紀の半生記を想像で描いた『緋の河』の完結編『孤蝶の城(桜木紫乃、クライム・サスペンスでありながら疑似家族の暖かさを感じさせる『黄色い家(川上未映子など。

 

・SF/ファンタジー部門:『ボーン・クロックス(デイヴィッド・ミッチェル)』

ある女性が長い生涯において何度か遭遇した理解の及ばない事件には、どのような意味があったのでしょう。「少々不思議」ながら現実世界の出来事に即して語られてきた物語は、終盤になって一気にハイファンタジーの世界に突入していきます。死すべき運命を避けられないからこそ生命は喜びに満ち溢れているという、古くからあるものの古びないテーマが、通奏低音として流れ続けている作品です。

 

他の候補は、昨年のベスト本であった『三体(劉慈欣)』の続編として宇宙の起源と終末にまで思いを馳せた『三体2 暗黒森林』『三体3 死神永生』、1950年代の宇宙開発計画における女性の役割を見直した歴史改変作品『宇宙へ(メアリ・ロビネット・コワル)』の続編である『火星へ』『無情の月』、宇宙でのDIY的サバイバルに意外なバディを登場させた『プロジェクト・ヘイル・メアリー(アンディ・ウィアー)』など。コミックながら出色の出来であるテルマエ・ロマエ 1-6(ヤマザキマリ)』も挙げておきましょう。

 

・女性問題部門:

特にベストは決めませんでしたが、世界の女性問題に関わる本を多く読んだ年でもありました。世界の女性地位向上を目的とするNGO団体の企画による『わたしは女の子だから(角田光代/訳)』、インドの被差別カーストに属する女性の教育問題を扱った『あなたの教室(レティシア・コロンバニ)』アフガニスタンの女性作家たちによる短編集『わたしのペンは鳥の翼』、ガーナ出身の著者による『アーダの空間(シャロン・ドデュア・オトゥ)』、そして韓国のフェミニズム文学を象徴する『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュの『彼女の名前は』『ミカンの味』、彼女に続くファン・ジョンウンやソン・ウォンピョンらの著作など。日本文学では先述の『砂に埋もれる犬(桐野夏生)』なども女性問題を扱った作品です。

 

 

今年も素晴らしい本とたくさん出合えましたが、現実世界は厳しさを増す一方です。新型コロナ禍は収束しつつあるようですが、ウクライナ侵攻の出口は見えていないし、中東でも痛ましい悲劇が起こりました。今の時代を新たな「戦前」としないためには、歴史から学ぶことも必要なのですが・・。来年こそは良い1年になって欲しいものです。

 

2023/12/29