小説とは「満を持してようやく少しだけ書ける小さくて素朴な物語」だという韓国の作家が、手のひらに書かいてみたようなシンプルな単語を原型として紡ぎあげた掌編集です。そこに書かれているのは、「絶望的で悲しい社会現象である暴食、爆笑、暴力の時代を耐え抜く」ためのシンプルな単語です。たとえば、親切と謙遜、愛と平和、橋と道というような。
「1章 世の中に悪い人はいない」
・世の中に悪い人はいない:イヌやネコが主人となる世界で、飼い主に愛されるニンゲンとは?
・自分のことだけ考えて生きよう:余命宣告された医師は、自分のために生きることの意味を考え始めます。
・手応え感じる:予感ほど当てにならないものはないのですが・・。
・爪楊枝:亡くなった友人に再会する手立てはありません。では北で暮らす友人とは?
・タンポポの綿毛:着地したところで生きていくしかないのが人生なのでしょうか。
・ウサギと斧:地下階に越してきた異様な男が振りまく悪臭は、飼っていたウサギのものでした。い
・今、何時?:絶望的な状況下でも自分がいる場所と時間を確認することは重要なのです。
・魔法使い:他人の願いを叶える魔法使いでも、願いを持たない人には通用しません。
・外出:療養病院で伏せっている級友が向かおうとしている先は?
・モーテル女性転落死事件:事件の被害者が知り合いと知らされた時の哀しみ
・詩と少女:かつて文学少女だった伯母は、なぜ影のような人生を歩んだのでしょう。
「2章 願いを聞いてあげる家」
1章の最後に登場する医師が、伯母の「痛み」を知るために心療内科クリニックを開業します。
・ケシの花:願いを聞いてあげることは、時として願いを叶えることよりも重要なのでしょう。
・彼岸花:愛の破局後に僧侶になった元恋人と再び愛し合う日は来るのでしょうか。
・南天の木:自殺願望を口にする女性の真の願いとは?
・かぼちゃの花:精神科医は謎の老人から他人の願いを3つ叶える能力を授けられるのですが・・。
・朝顔:死期が迫った男の願いは生き別れた娘との再会でした(願い1)
・野菊:認知症に罹った伯母は、息子の幸福だけを願い続けています。
・雪の花:余命宣告された命を伸ばすために必死なのは、本人ではなく姉のほうでした(願い2)
「3章 猫の傷」
人びとが静かに暮らしている、国境に近い北の町の物語
・麻浦大橋の渡り方:身投げを思った青年は橋の上で聞いた吉報に救われました。
・ハロー、グッドバイ:近所のスーパーのおばさんのオカリナが魅力的な理由は?
・キリギリス通りからの手紙:小さなミスが命取りになることがあっても、全てに用心する生き方は虚しいのでしょう。
・対南放送:敵対的な北の隣国からの放送は逆に、戦争を起こすまいとの覚悟を新たにしてくれるようです。
・母の涙:人生における寒波注意報は愛する人の死なのでしょう。
・赤い月:野良猫の世界も弱肉強食のようです。
・車椅子を押しながら:言葉よりも表情のほうが重要な場合もあるようです。
・日に当て、風に当てよ:酷暑、爆食、爆笑・・過ぎれば見苦しいものばかり。政治・経済・文化も同様。
・怒りとはどこから湧いてくるのか:怒りとは去っていくものであり、その後からは平穏がやってくるはず。
・深夜、開票所にて:選挙開票アルバイトで、投票用紙1枚からでもわかることがあると知りました。
・蝶が舞う:時が来れば蝶は舞う・・当たり前のことなのですが。
・夜市:お金では買えない思い出も得ることができる場所
・腕の折れた仏像:一度は切れた友情の糸も結び直すことができるようです。
・僕が子供を抱きしめたのではなく、子供が僕を抱きしめてくれたのだ:タイトル通りの物語
・カササギの攻撃:互いに理解できない状況ほど恐ろしいものはありません。
・インド洋の物乞い:見方によっては托鉢も物乞いに見えるようです。
・まばたきする間に30年が過ぎた:これから先の30年もあっという間なのでしょう。
・糊:裏に隠れた接着剤の役割とは?
・猫の傷:自分では見えず痛みも感じない傷跡でも、他人からは目立つものもあるのです。人生とはそんな傷を負っていくものなのでしょう。
2024/1