1.鏡と光 上下(ヒラリー・マンテル)
ヘンリー8世の寵臣として、イングランドの宗教改革や絶対王政の確立に大きく貢献したトマス・クロムウェルの生涯について、正面から向き合った3部作の最終巻。アン・ブーリンの登場とトマス・モアの処刑までを描いた第1部『ウルフ・ホール』、アン・ブーリンの処刑を中心とする第2部『罪人を召し出せ』は、ともにブッカー賞を受賞しています。本巻で描かれるのは、大貴族やカトリック勢力からの恨みをかっていたトマスを唯一護っていた君主の寵愛が失われていく過程です。重厚で読み応えのある大河歴史小説でした。ちなみにピューリタン革命でチャールズ1世を処刑するオリバー・クロムウェルは、トマスの甥の曾孫です。
2.終わりのない日々(セバスチャン・バリー)
19世紀半ばにアメリカに渡ってきたアイルランド人の少年トマスは軍隊に入り、先住民との戦いや南北戦争に従軍する中で、同年代の放浪児ジョン・コールを愛するようになっていきました。新たなアイデンティティに目覚めたトマスが語る数奇な物語は、波乱万丈であると同時に胸に迫ってきます。カズオ・イシグロは本書について「暴力的でありながら詩的な西部小説であり、生まれつつあるアメリカの圧倒的ビジョンを見せてくれる奇跡の作品」と語っています。全く同感です。
3.黄色い家(川上未映子)
2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つけます。60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていました。花は、長らく忘却していた20年前の黄美子との不思議な同居生活を思い出します。それは黄美子と3人の少女たちが疑似家族のように暮らした日々のこと。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解してしまったのですが、ついに実母を愛せなかった花は、黄美子の中に「母」を感じていたのでしょう。クライム・サスペンスでありながら、奇妙な暖かさを感じさせてくれる作品です。
【次点】
・ミシンの見る夢(ビアンカ・ピッツォルノ)
・過去を売る男(ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ)
・わたしは女の子だから(角田光代/訳)
【その他今月読んだ本】
・夜哭烏(今村翔吾)
・青瓜不動 三島屋変調百物語九之続(宮部みゆき)
・イクサガミ 地(今村翔吾)
・ミカンの味(チョ・ナムジュ)
・SGU警視庁特別銃装班(冲方丁)
・物語スペインの歴史 人物篇(岩根圀和)
・商う狼 江戸商人杉本茂十郎(永井紗耶子)
・浮世絵の解剖図鑑(牧野健太郎)
・物語スペインの歴史 海洋帝国の黄金時代(岩根圀和)
・あなたの教室(レティシア・コロンバニ)
・帝都上野のトリックスタア(徳永圭)
・百寺巡礼 第5巻 関東・信州(五木寛之)
・九紋龍(今村翔吾)
・五月 その他の短篇(アリ・スミス)
2023/12/28