1.走る赤(武甜静 ウー・テンジン編)
現在最前線で活躍している中国の女性SF作家14人の傑作短篇集です。VR世界を疾走する昏睡状態の少女。人類の科学発展を見守るネコ族。異種族コンビによるSF「西遊記」。架空言語研究者の母を持つ少年の「母語」。日本を襲った黒船宇宙船に挑む倒幕の志士。反物質粒子を吹き出すワームホールに対峙する老用務員。宇宙開拓時代においても消えない寂寥感・・。多種多様なテーマが揃うのも当然のこと。中国SF作家の女性比率は40%を超えているのですから。
2.まっとうな人生(絲山秋子)
著者初期の傑作『逃亡くそたわけ』の17年ぶりの続編です。バイト先で知り合った男性と結婚して一児の母となり、富山で暮らしている「花ちゃん」が、「なごやん」と再会。2人はかつて、一緒に精神病院を脱走し、九州を縦断する逃走劇を繰り広げた関係だったのです。花ちゃん曰く「ただの再会」にすぎませんが、彼女は「「まっとうな人生」について思いを巡らせます。正解を求めれば求めるほど、人生は希薄になっていくのでしょうか。
著者は「子供を主人公とする小説は難しい」と述べています。子供を語り手とすることで使える言葉や表現に限界があるうえに、懐古的・教訓的・綺麗事に引き寄せられがちだというのです。著者自身の中にいる夢想家とリアリストのどちらも満足させる「少年たちの小説」という答えは、本書の中に見出せます。5つの短編はどれも、理不尽な世界に抵抗する「伊坂ワールド」の物語になっているのです。
【その他今月読んだ本】
・興亡の世界史9.モンゴル帝国と長いその後(青柳正規編/杉山正明著)
・ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし ドナウを下って(エステルハージ・ペーテル)
・中国・SF・革命(ケン・リュウほか)
・大丈夫な人(カン・ファギル)
・興亡の世界史11.東南アジア多文明世界の発見(青柳正規編/石澤良昭著)
・京都伏見のあやかし甘味帖 7(柏てん)
・興亡の世界史12.インカとスペイン帝国の交錯(青柳正規編/網野徹哉著)
・小説イタリア・ルネサンス1.緋色のヴェネツィア(塩野七生)
・小説イタリア・ルネサンス2.銀色のフィレンツェ(塩野七生)
・小説イタリア・ルネサンス4.再び、ヴェネツィア(塩野七生)
・竹光始末(藤沢周平)
・獅子の門6 雲竜編(夢枕獏)
・獅子の門8 鬼神編(夢枕獏)
・少女を埋める(桜庭一樹)
・春秋山伏記(藤沢周平)
・心淋し川(西條奈加)
2022/11/30