りぼんの読書ノート

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プロテウス・オペレーション(ジェイムズ・ホーガン)

第二次世界大戦の結果次第では、現在の世界は全く異なる様相を見せていたに違いありません。このテーマは多くのSF作家の興味を惹いたようで、先駆的な『高い塔の男(フィリップ・K・ディック)』から『ファージンシリーズ(ジョー・ウォルトン)』に至るまで、多くの作品が書かれています。ハードSFの第一人者が1987年に著した本書もその係累ですが、量子理論に基づく多次元世界や、タイムトラベルを組み合わせることで複雑な世界を描き出しています。現在では既に馴染みのある概念ですが、当時はまだ斬新なアイデアだったのでしょう。

 

1974年。ナチスドイツと日本帝国が世界の大部分を占める中で、唯一の民主政大国であるアメリカは、JFK大統領の指示によって1939年に「プロテウス」と呼ばれる秘密部隊を送り出します。もっとも20世紀にタイムマシンが作れたはずもなく、最初のマシンは21世紀の未来人によって送り込まれたもの。実は最初のタイムトラベルは21世紀のファシストが1920年代のドイツに向けて行われており、その時代のファシズムの勝利をもたらしたというのです。

 

12名の科学者や軍人からなるプロテウス部隊の任務は、英米の政治家たちに厳しい現実と未来を告げることでナチスに対する戦いを準備させることに加えて、ドイツの深奥部で稼働を続けているタイムマシンを破壊することでした。チャーチルルーズベルトアインシュタインフェルミアシモフなどの歴史的人物は、プロテウス部隊によって覚醒されるのでしょうか。そしてその結果もたらされた「改変世界」とはどのようなものなのでしょうか。

 

文庫サイズで686ページの大作だけあって、数多くのエピソードが詳細に書き込まれています。プロテウス部隊のリーダーであるクロードの正体や、彼が自ら体験するタイムパラドックスや、21世紀世界と連動してのドイツ潜入場面などは読ませどころ。個人的な好みは、SF作家の卵に過ぎなかったアシモフのアイデアが、アインシュタインをインスパイアしてタイムトラベルに関連する重大問題を解決に導かせるエピソードです。

 

2022/10