りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

東京ロンダリング(原田ひ香)

変死事件などが起こった「訳あり」不動産物件に短期間入居して浄化するという奇妙な仕事は、実在しているのでしょうか。自分の浮気が原因で夫と離婚し、追い出されるように家を出てきた32歳のりさ子は、不動産屋に見込まれてしまいます。かなり切羽詰まった境遇にいる者でないと、通称「不動産ロンダリング」と呼ばれるこの仕事は務まらないようです。

 

堀川アサコの『うさぎ通り丸亀不動産』のような奇怪な事件が起こるわけではありません。しいて言えばりさ子の前からこの仕事に就いている中年男性が、蝉の声が聞こえないと言っていることくらいでしょうか。むしろ事件に関わる人間の来訪などが現実的な煩わしさなのですが、それでも何かしら日常性を超越した緊張状態、もしくはその逆の無気力状態が求められるのかもしれません。

 

住んだ先々で出会った人々と交流してしまったことで、次第に心を和らげていったりさ子は、もうこの仕事には戻れないのでしょう。彼女が普通の社会に復帰できるようになるためには、もうちょっと時間がかかりそうに思えるのですが。

 

2022/10