りぼんの読書ノート

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余部鉄橋物語(田村喜子)

『京都インクライン物語』や『北海道浪漫鉄道』をはじめとする、土木関係をテーマにしたノンフィクションを多数執筆した著者の遺作となった作品です。明治45年(1912年)に完成してから、平成22年(2010年)にコンクリート製の新余部橋梁に架け替えられるまで、およそ100年もの間、山陰本線の運航を支えてきた余部鉄橋の物語。

 

陸の孤島であった兵庫県北部、但馬地方に鉄道を通した背景には、ロシアに対する国防上の理由があったそうです。それでも地域住民の期待を込めて架けられた余部鉄橋は、高低差40m、延長300mの「東洋一の橋梁」として、土木遺産に認定されています。しかし何よりも「天空を駆ける」かのような美しさが魅力であり、

その役割を終えた後も、一部が「展望施設・空の駅」として残されました。

 

本書は、その設計や建設に携わった技師や地元の人々の記録、、昭和61年(1986年)に起こった客車転落事故の状況、新余部橋梁への架け替えに至った経緯などを、多くのエピソードや証言を交えて丁寧に説明してくれています。鉄橋建設を決断した当時の米子鉄道管理所長が、京都インクラインや北海道鉄道建設に携わった田辺朔郎氏の部下であったことには、ちょっとした因縁も感じますね。

 

つい先日、山陰本線JR西日本最大の赤字路線であり、存続が危ぶまれているとのニュースを見ました。ワーキングチームが検討を開始したとのことですが、難しい問題です。

 

2022/10