りぼんの読書ノート

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世界の99%を貧困にする経済(ジョセフ・E・スティグリッツ)

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1990年代代半ばにアメリカの経済政策運営に携わり、世界銀行の上級副総裁などを務めた後に2001年度のノーベル経済学賞を受賞した経済学者が著した「1%の1%による1%のための政治」を批判する警鐘です。アメリカ社会の不平等に抗議した2011年のウォール街デモのスローガンである「我々は99%」は、著者の論文からきています。

冷戦以降の世界では「市場さえ正しく機能すれば経済はうまくいく」という自由市場主義が強まっていますが、それが最も進んでいるアメリカでは「ワーキング・プア」という言葉が象徴する中流層の空洞化と極貧世帯の急増が進展しています。それは所得増加が上位1%層に偏っているためであり、自由市場はそれを是正できないというのが、著者の主張です。

著者は多くの実例を引いて、富裕層に集まる富が下層へしたたり落ちれば経済全体が潤うという「トリクルダウン効果」を否定し、上位1%のみがますます肥え太る「レントシ-キング」システムの存在を明らかにしていきます。補助金も、国家資産や権利の払い下げも、税制も、救済制度も、その一部なんですね。さらには自らも所属していた世界銀行の破産国救済策も、国家経済の立て直しよりも先進国の金融機関への債務返済優先策だったと切って捨てるのです。

では、この世界をより公平で効率的な社会に転換することは可能なのでしょうか。著者は最終章で、税制改正社会保障制度の充実、住宅債務の救済、平等な教育制度、金融機関の監視強化などの「指針」を出していますが、最大のカギは「政策」を作り出す「政治」だと言い切ります。それは同様に、欧州や日本など「アメリカ化」が進みつつある諸国への警告でもあるのです。

アダム・スミス以来の自由経済主義を批判し、今や「アメリカンドリーム」は死語となったと言い切る本書は衝撃的であり、挑戦的でもあるのですが、六本木ライブラリー・アドバイザーの小林麻実氏が評していたように「読んでおかなければいけない本」だと思います。


2012/11 オバマ大統領が再選を果たした翌日に