りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アメリカーナ(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)

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初期の短編である『アメリカにいる、きみ』をもとにして、大河ラブロマンスに仕立て上げた作品のようです。祖国ナイジェリアと大学時代をすごしたアメリカを往来しながら作品を書き続けている著者独特の世界観が、ストレートに伝わってきます。

 

本書で綴られるのは、不正が横行するナイジェリア社会への批判であり、アメリカに渡ったナイジェリア人が経験するさまざまな不都合や恩恵であり、非アメリカ人の黒人であるからこそ見えるアメリカの差別意識の実態です。欺瞞や虚飾を剥ぎ取ってしまうと、アメリカとナイジェリアという対極にある社会の本質は、それほど異なっていないのかもしれないように思えてきます。もっとも欺瞞や虚飾こそが文明の成果なのかもしれませんが。

 

しかし本書のテーマはあくまでもラブロマンスなのです。高校時代に永遠の愛を誓い合いながら、現実の壁によって引き様れてしまったイフェメルとオビンゼが、13年後に再会する物語。アメリカの大学に入ったイフェメルは、悲惨な経験を乗り越えて人種問題を考察するブログを立ち上げて人気を博しました。裕福な白人カートとの恋愛は破綻したものの、誠実なアフリカ系アメリカ人大学教師のブレインと同棲しているイフェメルは、「誰かほかの人になったふり」をしている自分に嫌気がさして帰国を決意します。

 

一方のオビンゼは9.11テロによって渡米を阻まれてイギリスに渡りますが、不法就労偽装結婚の企てを見抜かれて強制送還。しかし帰国後は不動産取引で巨万の富を得て、完璧で美しい妻や娘との優雅な生活を手に入れています。そんな2人の再会はどのようになってしまうのでしょう。著者の分身のように自分に正直に生きるイフェメルと、あくまでも自分や家族や恋人に誠実に生きようとするオビンゼは、幾多の壁を乗り越えることができるのでしょうか。もちろん最大の壁は、それぞれ魅力的な人物であるブレインとコシの存在なのですが。

 

著者は「シングルストーリーの危険性」というTEDトークでも有名とのことです。未見なのですが、鋭い社会矛盾の指摘をすべて背景として退け、その上にオールドファッションのラブストーリーを乗せてしまった本書には、何層ものストーリーが織り込まれています。イフェメルとブレインの仲直りのきっかけにオバマ大統領誕生の興奮を使うという、贅沢な扱いをしているほどなのです。

 

2021/7