りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

象使いティンの戦争(シンシア・カドハタ)

f:id:wakiabc:20210622122817j:plain

1956年にシカゴで生まれた日系2世の著者が、ベトナム戦争に巻き込まれた少数民族の悲劇を、像使いを少年の運命に仮託して書き上げた作品です。

 

大都市から隔絶したベトナム高地のジャングルに暮らすラーデ族は、ベトナム戦争の最中でもあまり影響を受けずに穏やかな生活を営んでいました。ジャングルに詳しいため、親切にしてくれるアメリカ人の協力をして敵の足跡をたどるトラッキングをする者はいたものの、戦闘に参加することはなかったとのこと。しかしアメリカ軍が撤退した後で、北ベトナムから敵とみなされたラーデ族の村は襲撃を受けてしまうのでした。

 

本書の主人公である13歳の少年ティンの願いは、最年少の像使いになること。愛する家族や、愛する牝象のレディとずっと一緒に暮らし続けることが当然だと思っていました。しかし突然戦争に巻き込まれて多くの者を失い、焼き払われた村を出て生き残った家族とともにジャングルに逃げ込んだティンの生活は一変。戦うことや正しさについて、さらには部族の中でも生まれた深い溝についても考えるようになっていくのです。悲惨な物語ですが、人間たちの対立や思惑など超越しているかのような象たちの存在が救いを与えてくれます。著者はニューベリー賞受賞作家であり、本書もYA文学として扱われていますが、鮮烈な印象を残してくれる作品でした。

 

2021/7