りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

バナナ剥きには最適の日(円城塔)

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難解さというよりシュールすぎてわかりにくい作品をつむぎ続ける著者の、「どちらかというとわかりやすく、そのくせ深い」9作の短編を収録した本ということになっています。ただ私としてはこれはペンです道化師の蝶のほうがわかりやすかったと思いますし、内容的にも上だと思います。

「パラダイス行」 右はあるのか。左はあるのか。ないはないはないなのか。パラダイス氏なる男性との関係を通じて存在なるものの意義を問う作品です。何かを信じると、必然的に信じないモノまで生まれてしまうのでしょう。

「バナナ剥きには最適の日々」 無人探査機で宇宙を漂う人工知能が夢想するのは、架空の話し相手や架空の宇宙人との遭遇。フルになったメモリを何度も消去されることは何度も死を体験することなのでしょう。

「祖母の記憶」 寝たきりの祖父を動かしてコマ撮り映画を撮って超人に仕立て上げる兄弟が、寝たきりの祖母を使って同じことを行う少女に遭遇。そして超老人同士の恋愛物語へと・・。老人虐待は許されないけど超人虐待ならいいのでしょうか。

「AUTOMATICA」 文章の自動生成について語る話。このテーマが『これはペンです』に繋がっていったのでしょうね。

「equal」 詩的な文章でそれぞれ1ページに収めた15個のショートショート。無と有、大好きと大嫌い、男の子と女の子、あなたとわたし、こちらとあちら、外側と中身。著者の発想の原点のようです。

「捧ぐ緑」 無性分裂を繰り返すミドリムシに魂はあるのか。信仰を持つのか。輪廻を巡るのか。研究者の独白がいつしか恋の話に変わっていきます。

「Jail Over」 ネズミの肉から作られたフランケンシュタインと自分が逆転し、わたしがつくったわたしがわたしをじっと見つめてきます。しかし、赤ソーセージの白ソーセージ殺しとはなんともシュールです。

「墓石に、と彼女は言う」 過去のわたしは、未来のわたしとどこまで同一か。形作っている原子は異なるはずなのに、アイデンティティはどこにあるのか。並行世界のわたしはどこまでわたしと同一か。物質の配置が全てなのでしょうか。

「エデン逆行」 円城塔バージョンの『城』ですね。林檎を求める旅人が無限に拡がる時計の街を往くのですが、街の中心に行き着くことはありません。女の子は皆、母方の祖母と同じ人物。男の子は皆、父方の祖父と同じ人物。祖母はわたしで、わたしは祖母だが、違う人間。理解できない世界ですが、理解する必要はないのでしょう。

2012/11