りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

虚像(メディア)の砦(真山仁)

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ハゲタカ』シリーズによって世界標準から孤立した日本の商慣習にメスを入れた著者が、日本におけるメディアの問題を、報道とバラエティという2つの側面から問いかける小説です。

主人公は民放キー局の報道番組ディレクター風見と、バラエティー番組プロデューサー黒岩の2人。
イラク武装勢力に3人の日本人が拘束された事件の報道に携わった風見は、この事件が自衛隊イラク派遣を強行した内閣の存続にかかわりかねない重大性を持つことを認識した上での中立な報道を試みますが、政府による世論誘導や報道制限の壁にぶつかります。

一方の黒岩は24時間番組の構成や司会人選を巡って、バラエティーのあるべき姿や若手芸人の育成の観点から自説を主張するのですが、彼が突き当たった壁はTV局上層部とスポンサーや芸能事務所との癒着という問題でした。

風見にはテレビ局を監督する総務省の若手エリート調査官が、黒岩にはかつての盟友で今はTVから離れた落語家が、それぞれ2人の姿勢に理解を示してくれるのですが、部外者には大勢を覆すのどの力はありません。果たしてTV局内で孤立を深める2人の行く先は・・。

・・という小説なのですが、バラエティーからの問題提起は不要だったかもしれません。より大きな問題は世論に影響を与える報道のほうなのでしょうから。確かに2004年のイラク人質問題で、自衛隊撤退を声高に主張する人質の家族に対して、途中から「自己責任」の言葉が浴びせられるようになったのは記憶に残っています。この裏には放送免許更新と絡む政府の関与があったのでしょうか。

ただし、2つの問題を並べることによって見えてくる問題のほうが根本的なものなのかもしれません。それはTV局の財政問題なのです。バブル崩壊以降のCM収入の激減や自立しえない系列地方局への支援が、経営に重くのしかかっているんですね。すべての原因がそこにあるのだとしたら、確かに数名の有志による改革の意気込みだけではどうにもならないのでしょう。著者のメッセージは、それにもかかわらず「変革しえる」ということなのでしょうが・・。

2012/11