りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

LOVE&SYSTEMS(中島たい子)

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デビュー作『漢方小説』以来、自分自身をモデルにしたかのような等身大の女性を描いてきた中島さんによる、なんと「近未来SF小説」です。といっても、宇宙人やタイムマシンが出てくるわけではありません。少子高齢化問題に対応するために変貌してしまった世界を舞台にはしているものの、ここに描かれているのはストレートな恋愛なんです。

結婚制度も家族という概念も無くして社会全体で子どもを育てるシステムを作り上げた欧州のF国は、国力を伸ばして繁栄する成功例と言われているのですが、雑誌記者ロウドが極東に生まれた別のシステムを持つ国々の状況をレポートします。

極東の実在の国の将来をモデルにしたかのようなN国では、封建的家族制度を復活させていました。結婚相手は国が決定し、家族の姓のみを残して個人の名前は失われ、女性の社会進出の道は閉ざされて内助の功のみを期待する社会。果たして国民は満足しているのでしょうか。ロウドはインタビュー相手の「ヤマノ家のムスメ」に恋してしまうのですが・・。

同じ国の別の将来像と思えるJ国は少子高齢化対策に失敗し、まっとうな移民からもそっぽを向かれてて国力を失い、老人と不法移民が死ぬまで働かざるをえない貧しい国に成り果てていました。財産を持たない大多数の国民は結婚することも出来ない社会なのですが、70歳の老人と不法移民女性の結婚は純愛の産物なのでしょうか。

やはり同じ国の別バージョンと思えるZ国内で半独立するパラダイスでは結婚制度はすでになくなっており、そこは競争も所有も犯罪も嫉妬もない理想社会と思えたのですが、その仕組みに疑問を持つ者を「旅に出す」ことによって共同体を維持していたのです。

F国に戻ったロウドは少年時代の失われた過去の記憶を呼び覚ました結果、ある決断をするのですが、果たしてこんな時代のこんなシステムの中で、彼の純愛は成就するのでしょうか。結婚制度がない国の男性と国家が結婚を決める国の女性との出会いは、どういう結末に至るのでしょうか。

中島さんの作品のレビューとしては、異例の長さになってしまいました。SFだと「世界観」を説明しないわけにはいかないのです。ここに描かれた近未来の姿は決して明るくはありませんが、そんな世界でも純愛は可能という物語の読後感は爽やかです。しかし「恋愛=所有=結婚」という現代人の恋愛感のままでは、「パラダイス」は成り立たないんでしょうね、やっぱり。^^;

2012/11