りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/10 ヒストリー・オブ・ラヴ (ニコール・クラウス)

10月は期せずして、ナチスのよるユダヤ人虐殺に関係した本を多く読むめぐり合わせとなりました。W.G.ゼーバルトの2冊をはじめとして、1位とした『ヒストリー・オブ・ラブ』や2位の『本泥棒』のテーマも、その問題に深く関係しています。誰もが想像し得なかった規模で行われた、巨大な国家的犯罪の前では、フィクションなど霞んでしまいそうなものですが、そこからもなお、物語を紡ぎ出すのですから、作家というものは凄いものです。

1.ヒストリー・オブ・ラヴ (ニコール・クラウス)
誰からも忘れられていた一冊の本に登場する女性の名前をとって名づけられた少女・アルマが、その本の著者と出会うという奇跡。ナチスに蹂躙される祖国での別れ以来、60年以上も、その女性を愛して見守り続けた男のひたむきな想いは、感動的です。

2.本泥棒 (マークース・ズーサック)
弟を弔った墓場から、ナチスによる焚書の灰の中から本を盗み出し、言葉を覚えた少女の言葉が、空襲に怯える街の人々を癒やします。その意味で、少女は、言葉によって人類を戦争に巻き込んだ小男と対等に向かい合っているのです。

3.灰色の輝ける贈り物 (アリステア・マクラウド)
スコットランド高地からの移民が多く住む、カナダ東端の厳冬の島を出て行く若者たち。彼らもやがて年老い、島に残った父母たちの気持ちを理解できるようになっていきます。そこにあるのは、単なる後ろめたさだけではありません。人生を見つめ続けた著者の、最初の短編集。

4.黒の過程 (マルグリット・ユルスナール)
16世紀のフランドル地方。同時代のあらゆる知を追及した錬金術師ゼノンがたどりついた先は、神への絶望なのか、素朴な信仰なのか。着想を得てから45年間、ユルスナールが、その生涯をともにしたと言っても過言ではない物語が、格調高く歌い上げられます。

5.オクシタニア (佐藤賢一)
13世紀の南フランスに向けられたアルビジョワ十字軍の時代。異端カタリ派に入信して去ったジラルダを忘れられない夫エドモンは、正統ドミニコ派の異端審問官となりつつも妻を追い続けます。神をめぐる壮大な争いの物語というより、正統と異端の垣根を越えた、普遍的な純愛物語として読むほうが自然かもしれません。




2007/11/2