りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

八日目の蝉(角田光代)

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不倫相手の家に忍び込み、生後6ヶ月の赤ん坊を連れ去った希和子。堕した自分の子につけるはずだった「薫」という名前をその子につけて、5年近くも逃亡の日々をおくるのですが、やがて逃げ切れなくなる日が訪れます。

十数年後、19歳になった恵理菜には自分が「薫」と呼ばれていた時の記憶はほとんど残っていません。彼女の記憶は、逮捕される「母」から引き離された時からはじまり、その日からずっと、実の父母や妹とのギクシャクした関係が続いているのです。

空中庭園』で家族の絆の脆さと虚構性を描いた著者が、再び、家族の問題にサスペンス仕立てで挑んだ作品ですが、作者が注ぐまなざしは、当時よりも暖かくなっているようです。

ラストでの恵理菜の「ある決断」と、出所した希和子との「すれ違い」が、将来への希望を感じさせてくれるのです。運命にただ翻弄されるのではなく、その中でもなんとか自分の人生を自分で生きていこうとすることは、決して無駄ではないと思わせてくれるのです。

仲間が死に絶えた翌日まで生き延びた蝉は、孤独を嘆くのか。それとも、他の誰も見られなかった景色を見たことに意味を感じるのか。渾身のサスペンスです。

2007/10


P.S.本書を原作とした映画は素晴らしかったですね。永作博美さんが素晴らしい!