りぼんの読書ノート

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木星の月(アリス・マンロー)

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アリス・マンローさんが70年代から80年代にかけて書いた、比較的初期の作品が収録された短編集です。後のイラクサに見られる、一瞬の出来事が永遠と対峙するかのような鮮烈さには及ばないようですが、この段階で既に「マンローワールド」は出来上がっています。

自分の中に家族の痕跡が残っていることを認めざるを得ないから、かえって、両親の家族に代表されるなにものかを厭う女性。軽蔑している恋人の機嫌をとるのは、幸福を得るためではなく自分の癒しのためにすぎないと気づいている女性。一方で、恋ゆえに耐え忍べる惨めさとゴタゴタにも限りがあると自分に言い聞かせて、恋人のもとから去っていく女性。

父の死に伴う喪失感を、ある種の解放として受け止めてしまう気持ちに気づいてとまどう女性。手術前の父との最後の会話が、場面にそぐわない話題だったことが、後ろめたさに拍車をかけます。父の最後の言葉は、彼女の尋ねた木星の月の名前。それは、父の看病中に気晴らしででかけたプラネタリウムでちょっと気になったことにすぎなかったのですが・・。

家族や、夫や、不倫相手や、行きずりの相手と繋がりを持つことにうんさりしながらも、また新たな繋がりを求めざるを得ない女性たちが、まるで著者の分身のように形を変えて何度も現れます。冒頭の「チャドゥリーとフレミング」や、最後の「木星の月」は、後の自伝的短編連作集林檎の木の下での一章として位置づけられるものでしょう。

2007/10