りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/7 FUTON(中島京子)

今月は候補がいっぱい。
プリーストの『奇術師』とサラの『夜愁』の一騎打ちかと思ってましたが、同じプリーストの『魔法』のほうがよく思えてきて、最後は選びきれなくなり、全くテイストの異なる『FUTON』が漁夫の利で1位(笑)。田山花袋の『蒲団』を「打ち直す」なんて、表現としても素晴らしい!
1.FUTON (中島京子)
田山花袋の『蒲団』を、したたかな妻の視点から見直して「打ち直し」た小説内小説を核にして、「中年男と若い男女との三角関係」というテーマを現代に見事に甦らせてくれました。でも、いまどき花袋を研究する者なんて、外国の日本文学者だけなのでしょうか?

2.魔法 (クリストファー・プリースト)
後書きで、「本書を読む際の正しい態度は、いっさいの予断を抱かずに作者の『語り=騙り』に身を任せること」とあるのは、本当にその通り。『双生児』や『奇術師』のテーマははじめから明らかにされていたのと対称的に、本書では何がズレているのかなかなかわからないのですが、わかった瞬間の驚きでページをめくる手が凍り付いてしまいました。

3.夜愁 (サラ・ウォータ-ズ)
若き名手サラ・ウォーターズが贈る、めくるめく夜と戦争の物語。「そう。これが、あたしという人間の成れの果て・・」。主人公のひとりであるケイのこんなつぶやきが、3人の女性の同性愛関係を巡る物語の幕を空けます。戦後の1947年から始まり、戦時下のロンドンへと遡っていくという大胆な手法が、このテーマにピッタリはまっていくのですから驚きます。

4.空飛ぶタイヤ (池井戸潤)
トレーラーの走行中に外れたタイヤが、通りがかりの母子を襲った事故。「整備不良」の烙印を押されて経営危機に陥った中小運送会社の社長が大自動車会社による陰湿なリコール隠しに挑みます。大企業の傲慢さと、世間常識とは異なる「会社の論理」が、身につまされました。前回の直木賞選考で、最終候補に残っただけのことはある作品です。

5.ハドリアヌス帝の回想 (マルグリット・ユルスナール)
死の床にあるハドリアヌスが、後継者に向けて、人生を振り返ります。ユルスナールが描いたハドリアヌスは、人間の理性を信じて自らの人生を切り開いてきた自身に満ち、内省的ながら感情豊かな、素晴らしい人物。それは、価値観が揺らいだ時代に「ひとりの人間としてすっくと立った」ユルスナール自身が目指した生き方のようです。





2007/8/2