りぼんの読書ノート

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モンティニーの狼男爵(佐藤亜紀)

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フランス革命前夜・・といっても、パリでも、ベルサイユでもなく、革命からも遠く離れた、モンティニーなる片田舎が舞台。田舎者の青年男爵が、持参金がたっぷりついた修道院育ちの娘と結婚します。もちろん、典型的な政略結婚。ところが男爵は、妻となったドニーズに恋をしてしまうのです。ならば、小説になどなりっこない地味でつまらないお話? いえいえ、そんなことはありません。

2人の間に生まれた長男が病死した心の間隙を縫うように、ドニーズ奥方は女殺しのジゴロに餌食にされてしまいます。嫉妬に狂った男爵は、なんとなんと狼に変身。でも、誰もそれを不思議に思わないんですね。それどころか、狼の正体が男爵であることは、みんなにバレバレ。罠にかかってしまった狼男爵が売られちゃった時だって、執事のセリフは「旦那様が売り飛ばされました・・」^^

もちろん物語はハッピーエンドです。愛に目覚めたドニーズ奥方は必死で狼を守るのですから。鏡の影に続いて書かれた、軽妙洒脱な中世物語。後書きで小谷真理さんが非常にうまいことを言っています。「洗練されすぎていて、いささか邪悪でさえある」

ところで、やはり後書きでこんなことも書かれていました。処女作バルタザールの遍歴で、バルタザールとメルキオールが運命の双子として登場するのに、どうしてもう1人の東方三博士であるカスペールはいないのか? 佐藤さんの答えは明快だったそうです。「だって、欠損がなければ、他者を求めないでしょう」だって。^^

2007/8