りぼんの読書ノート

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マルコーニ大通りにおけるイスラム式離婚狂想曲(アマーラ・ラクース)

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アルジェリアに生まれてローマに在住している著者は、異文化の交錯と共存と衝突を、身を持って体験しているのでしょう。前作ヴィットーリオ広場のエレベーターをめぐる文明の衝突に続いての邦訳作品も、同様のテーマを扱っています。

とはいえ、イーサーとソフィアという男女が交互に語る物語は、なんともコミカルです。「欧州vs移民」という対立軸をストレートに打ち出すのではなく、イタリア社会と移民社会の双方が抱える内部の諍いが、「笑える状況」として描かれていくのです。

シチリア生まれの生粋のイタリア人であるイーサは、地中海風の風貌とアラビア語の能力を買われて、素人スパイとしてスカウトされます。ローマに持ち込まれたという爆弾の行方を追うため、チュニジア出身の移民に変装して、ムスリム・コミュニティに潜入。

一方のソフィアは、窮屈なイスラム女性の生き方から逃れようとして、イタリアに住むエジプト人男性と見合い結婚。美容師になって自立する夢を持ってローマに移住してきたものの、妻にベールをかぶせて家に閉じ込めようとする夫に失望。偶然出会ったイーサとソフィアは、互いに惹かれあうのですが・・。

タイトルは、1961年の映画「イタリア式離婚狂想曲」のパロディです。カトリック国のイタリアでは、1970年まで離婚は違法だったのですね。離婚を認めない当時のイタリアと、男性からしか離婚を持ち出せないイスラムの戒律が、二重写しになってきます。

イーサとソフィアは、2人の間を何重にも隔てている、重くて分厚い「異文化の壁」を倒すことができたのでしょうか。オープン・エンディングの場合、普通はハッピーエンドを想像したくなるのですが、この作品の場合は難しい。現実世界の移民問題を想起させるせいでしょうか。

2016/2