りぼんの読書ノート

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廃墟建築士(三崎亜記)

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となり町戦争以来、独特の感性に基づくミステリアスな小説世界を築き上げている著者による中篇小説集です。このひとの作風は、非日常の世界を日常感覚で描き出すところにあるのですが、いずれも「建物」をテーマにした本書の作品でも、その特徴は健在です。

「七階闘争」 7階で犯罪が多発したことを理由に7階を撤去する方針を打ち出した市に対して、7階を守ろうとする住民運動が発生します。たまたまマンションの7階に住んでいたごく主人公も巻き込まれてしまうのですが、これは7階を敵視する勢力による世界的な陰謀だった・・のでしょうか? 
「?」をつけたのは、どちらの側の論理もよくわからないからなのですが、ごく普通の人が非日常世界に巻き込まれて当惑する様子はデビュー作を思わせます。

「廃墟建築士 廃墟の存在こそが文明の成熟度を象徴するとされる中で、廃墟後進国であったわが国の草分け的な存在であった老廃墟建築士は、弟子たちが造る華々しくも薄っぺらな廃墟を邪道と考えていました。果たして「偽装廃墟」の存在が明らかになり・・という物語なのですが、「廃墟のための廃墟」こそが理想とされる世界はフェティシズムの極地ですね。これを読んでサグラダ・ファミリアを思い浮かべた人も多いのでは?

「図書館」 かつては野生の存在であった図書館は、蔵書を従えて大空を飛び回っていたそうです。飼いならされて建物の中に納まっている現在でも、夜になると本が飛び回るという習性を見てもらうため、夜間開館がブームとなっているのですが、図書館調教師がしっかりしていないと収拾がつかなくなり悲劇が起こることもあるんですね。本のジャンルごとに飛び方にも違いが出るというあたりは楽しい想像です。

「蔵守」 蔵と呼ばれる建物を守り続ける蔵守の役割は、見えざる敵から蔵を守るという意識を持ち続けること。長年勤め上げて引退を前にした蔵守に変化の時が訪れます。近代思想を身に着けた若い蔵守見習いが派遣されてきたり、自分の意識の中に異なる存在が生まれつつあることを感じたり、そしてついに恐るべき略奪者が登場して・・。「管理委員会うんぬん」の解説は余計でした。

2012/11