りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

煉瓦を運ぶ(アレクサンダー・マクラウド)

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聞いたことがあるような名前と思ったら、著者はアリストア・マクラウドの長男だそうです。カナダのケープ・ブレトン島を舞台にした作品を書き続けた父親に対し、息子が綴るのは、自身が育った地であるオンタリオ州の斜陽化しつつある工業地帯です。父親と同様、鋭い人間観察に基づいた完成度の高い短編の作者といえるでしょう。

「ミラクル・マイル」
互いに1500m走のトップランナーで、ライバルかつ友人どうしの2人が、重要な競技会に出場する1日をドキュメンタリータッチで描いた作品です。ピークアウトを意識した主人公のピリピリした感情の動きが、痛いように伝わってきます。

「親ってものは」
娘の頭に湧いたシラミを退治する父親は、妻が妊娠するまでの苦労、病気の乳児を連れての過酷なドライブ、その後の入院騒ぎなどの過去を思い出します。父親と娘の歴史は、まだ始まったばかりなのです。

「煉瓦を運ぶ」
煉瓦職人の主人公は、最後まで値をあげなかった煉瓦運びのアルバイトを連れて酒場に繰り出すのですが・・。物語の背景には、次第に衰退していく町の変化があるようです。

「成人初心者Ⅰ」
主人公は、ホテルの屋上から夜の川へとダイブする寸前、初めて行った海で溺れて死にそうになったこと、水泳教室での恋の予感などを思い出すのですが・・。タイトル水泳教室のクラス名です。

「ループ」
少年が近所の薬局で始めたバイトは、薬局に来られない老人や障碍者に自転車で薬品を配達するものでした。厄介な客が床に倒れているのを発見した少年は、応急処置を試みます。心優しい少年の成長はさておき、旧スタイルの薬局は、弱者たちともども、消えていく運命にあるようです。

「良い子たち」
四人兄弟の向かいの貸家には、いつも困った人が住んでは出て行っての繰り返し。兄弟たちと唯一名化yくなった礼儀正しい少年も、結局は家の問題で出て行きました。しかし気が付くと、兄弟たちの家を含む周囲一帯が問題地域になっていたのです。

「三号線」
自動車産業で栄えた町で自動車工場で働き続けた男が、自動車事故で妻と息子を亡くし、自分も大けがを負ってしまいます。突如始まった「余生」をすごす男が感じる徒労と悲哀が、自動車産業が衰退した町の様子とシンクロしていきます。

2017/1