りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ブルース(桜木紫乃)

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著者には珍しく、男性を主人公にした連作短編集です。昭和から平成初期の釧路を舞台にして、貧民窟で育った6本指の少年・影山博人が故郷の歓楽街の支配者となるまでが、彼と関係を結んだ8人の女性の視点から語られます。

中学時代に「下の町」で暮らす同級生の影山に惹かれた、「高台」のお嬢様の牧子。父親の工場で働く影山の母親が自殺した夜に、6本目の指を切り落とすよう頼まれた敏江。売春斡旋で買った影山に入れ込んで、すれ違いが続く夫との家を出ようと決意した美樹。「下の町」でともに暮らした影山に再会し、病死した夫が貸した金を回収してもらった圭。

パトロンを失って店を閉めた日に、影山から釧路行の切符を差し出してもらったまち子。やり手の母親から影山のところに送りこまれたもののスルーされ、母親とは違う生き方をしようと決意した絵美。市長に立候補した兄を操る影山が、義姉に子を産ませたことを知った千雪。そして最後に、結婚したまち子の連れ子である莉菜から父親として愛されたまま、彼女を守って生涯を終えることになります。

影山が一緒にいて楽な女性が誰なのか、著者は、物語を書き進めるうちにわかってきたと述べています。彼のことを理解してくれる幼馴染の圭ではなくて、彼のことを分からないときっぱり口にできるまち子だったのですね。圭の場合は、彼女に10年間の幸福を与えてくれた亡夫を忘れられないのではないかとも思いますし。

最後まで読むと、真の主人公は影山ではなく、視点人物となった8人の女性たちだということが理解できます。影山という男は、彼女たちに転機を与える役割を果たしたようです。ダメンズと関係して不幸になっていく女性を多く描いた著者が、女性たちに捧げたプレゼントなのかもしれません。

2017/3