りぼんの読書ノート

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ハケンアニメ!(辻村深月)

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ハケンとは「覇権」のこと。そのクールに放映されるアニメ番組の中で最もディスクが売れる「ハケンアニメ」の座を巡って、プロデューサー、監督、アニメーター、声優たちがしのぎを削って競い合う物語。アニメの採算は視聴率だけではなく、パッケージで決まるのですね。

アニメ業界というと低賃金・長時間労働というブラック面が連想されてしまうほどですが、実際に業界を取材した著者は「愚痴ではなくノロケを聞く感じだった」と語っています。アニメを愛する者が多いのは当然のこととして、感動を生む現場であることが大きな理由なのでしょう。

小説と漫画とアニメと映画から等しく影響を受けたという著者も、本書の執筆を楽しんだようです。作中に登場する「光のヨスガ」、「運命戦線リデルライト」、「サウンドバック 奏の石」というアニメ作品のプロットも、相当に書き込まれているのですから。

著者は多くの人物を登場させたかったようですが、最終的にはかなり絞り込まれました。第1章ではプロデューサー有科香屋子が見た天才アニメ監督の苦悩が、第2章では新進アニメ監督の斎藤瞳が学ぶアニメ制作現場の苦労が描かれます。そして第3章では、地方で仕事するアニメーター・並澤和奈と、地域おこしに取り組む公務員・宗森周平の関係を軸にして、アニメを愛する者たちの結びつきが展開されます。

結果は意外でしたが、アニメ制作者たちの競争は1クールで終わるものではありません。次のクールの番組制作や映画化の企画などが続いていく中で、新たな役割を担う者が現れ、新たな人間関係が生まれてくるのでしょう。

しかしアニメ愛だけで低条件労働に耐え続けられるものではなく、一方では、濫造されるアニメ作品の質の低下も懸念されています。「クール・ジャパン」の旗手として世界をリードする日本のアニメを、単に時間を埋めるための「クウキアニメ」ばかりにしないために打つべき手は、グローバル化しかないのではないかと、全くの門外漢ながら考えさせられてしまいました。

2017/3