りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

彩は匂へど(田牧大和)

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酔ひもせずの続編というより前日譚ですね。前作の「吉原遊女の連続失踪事件」が「其角と一蝶」の最後の事件なら、本書は2人が出会ってすぐに起こった最初の事件です。

人気絵師で吉原の幇間でもありながら、家綱の生母・桂昌院との因縁から心の傷を持っている一蝶は、馴染みの太夫から、俳諧の世界に超新星の如く現れた芭蕉一門を紹介されます。一蝶が深川の芭蕉庵を訪れると、そこは脅迫状らしい投げ文を受け取って大騒ぎになっていました。その中心で無神経な言葉を吐きまくっていたのが其角だったのです。なぜか意気投合した2人は、投げ文が琉球芭蕉布で包まれていたことと、一蝶が謎めいた琉球装束の女を目撃したことから、琉球出身の女を追うのですが・・。

生真面目な理論派ながら空気を読めない其角と、豪放磊落な直感派ながら神経は細やかな一蝶は、はじめからいいコンビです。しかし2人が出会うことになる事件は、前作と同様に理不尽なものであり、被害者の悲しみは癒し切れるものではありません。しかもそこには、大和に征服された琉球という民族的な悲哀も重なってくるのです。

せっかくお馴染みになった2人のコンビが、この2作だけで終わってしまうのは、惜しいですね。なんとか史実を曲げてでも書き続けて欲しいものです。

2017/1