りぼんの読書ノート

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利休の闇(加藤廣)

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信長の棺で、信長の遺体が消えた謎から秀吉の陰謀説を紡ぎあげた著者が、利休自刃の謎に迫ります。かつて太田牛一の「信長公記」の謎を解き明かした著者は本書の執筆に際して、利休のライバルであった津田宗及、今井宗久という2人の茶人が残した「茶会記」を丹念に精査したとのこと。

秀吉と利休の関係については諸説ありますが、秀吉の「大名茶」を利休が否定したことが一因であることを否定する人はいませんね。秀吉の「黄金の茶室」や「大茶会」が、利休の「わび茶」精神と相いれないものだろうとことは、茶道に詳しくない者が見ても一目瞭然なのですから。

著者もその点は否定していません。それに加えて、信長時代の晩年には織田家筆頭の茶頭に登り詰め、秀吉の茶事の師匠であった利休が、天下人となった秀吉との力関係の逆転を面白く思っていなかったことも、その理由に加えています。あえて秀吉に、躙り口で跪かせ、茶室での対等の関係を強調したというのです。

しかしそれだけでは、死を賜る理由としては弱いのでしょう。著者は「茶会記」から重大な秘密を発見したようです。それは本能寺で信長と共に失われたはずの名器に「似たり」という茶器を、秀吉が持っていたという記述でした。そこから利休は何を見出して、秀吉の逆鱗に触れることになったのでしょうか。

著者による「利休の人物像」もユニークです。本能寺の変の当日も信長の傍で茶の接待をしていたはずの利休が生き残ったのは、囲っている市中の女のもとに向かったからとしているように、かなりの俗人のように描かれています。それもまた、自刃の理由に結びついていくのですが・・。

デビュー時に75歳であった著者は、既に86歳になっているはず。デビュー作ほどの衝撃はありませんが、丁寧な論考を重ねた作品を生み出し続ける気力・体力に感心します。

2017/1