りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ノボさん(伊集院静)

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坂の上の雲では秋山真之との交流を中心に描かれた正岡子規ですが、もちろん彼の本分は創作と文学論です。「正岡子規夏目漱石」との副題を持つ本書は、2人の友情と交流から多方面に渡る日本の近代文学が立ち上ってくる様子を描いた作品です。

松山から上京してきた子規は、東京大学予備門で漱石と出会います。早々に東大を中退して日本新聞社に入社し、文学の道を歩むことを選んだ子規に対して、漱石が処女作『吾輩は猫である』を「ホトトギス」に掲載したのはロンドン留学後、子規の死後のことでした。「漱石」というペンネームも子規から譲り受けたほど2人の交流は深かったのですが、そもそも子規がいなければ漱石は文学に進まなかったのかもしれません。

創作を別にすると、子規の功績は「ホトトギス」の創刊と「歌よみに与ふる書」の連載ではないかと思います。そこから高浜虚子河東碧梧桐などの俳人伊藤左千夫長塚節などの「アララギ派」の詩人、さらには夏目漱石という近代小説の祖が育っていったわけです。明治という立身出世の時代に、政治・学問・軍隊・ビジネスで身を立てる道を放棄して、文学という得体のしれない世界に飛び込んで行くなど、一歩間違えれば敗残者だったわけですが・・。

本書では、肺結核から脊椎カリエスを病んだ子規の晩年から死までが描かれますが、最後まで「青春小説」の雰囲気を漂わせています。34歳の若さで亡くなったというだけでなく、生涯チャレンジャーであったことが大きな理由なのでしょう。

2017/1