りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010/6 新・雨月(船戸与一)

待望の『1Q84 Book3』を読みましたが、ちょっとはぐらされた感じです。青豆と天吾の一見ハッピーエンドに見える結末にもかかわらず、この本は続編を必要とする作品ではないかと感じてしまったのです。問題の提起の仕方がまだ不十分に思えたのですが、いかがでしょう。もちろん明快な謎解きなんて、はじめから期待していませんけど。

1位とした『新・雨月』は、歴史の底でうごめいて沈んでいった3人の男たちの視点から戊辰戦争を描き出した、船戸さんの力作です。
1.新・雨月(船戸与一)
雨月物語』で怪異の前触れとされた「雨夜の朧月」を見ることになる、3人の男たち。彼らが見た怪異とは、内戦と通じてあからさまになる、醜い人間性のことなのでしょう。長州藩の間諜、会津藩士、長岡の元博徒という3つの視点から、戊辰戦争の実体を立体的に描き出した力作です。

2.1Q84 Book3(村上春樹)
「小さきもの」を宿した青豆がついに天吾と巡り合い、「1Q84年」から脱出をはたします。ラブストーリーとしては完結しているようですが、「暴力の問題」と「親子の問題」については、これから問題提起が行なわれるのでしょうか。そういえば、これまでの村上さんの作品では、カフカの父親や、ユキの両親や、羊博士など、「親」が肯定的な意味合いで描かれたことはなかったようですが・・。

3.ロジー・カルプ(マリー・ンディアイ)
裕福な黒人青年ラグランは、カリブのリゾート島に降り立った、子連れの白人妊婦ロジーに恋してしまうのですが、本書では恋愛は重要なテーマではなさそうです。聖母子を象徴とする宗教へのアンチテーゼとも、フランス本国と植民地の関係の象徴とも、現代民主主義への皮肉ともとれるのですが、一元的な読み方をしてはいけないのでしょう。独創的で、重層的で、謎めいた作品です。



2010/6/30記