りぼんの読書ノート

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1Q84 Book3(村上春樹)

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Book1・2を読んだ時には「続編がなくてもかまわない」との感想を持ちましたが、「Book3」は続編を必要とする作品であるように思えます。謎解きははじめから期待していませんが、ここではまだ問題の提起の仕方が不十分なように思えてしまったのです。

「小さきもの」を宿した青豆がついに天吾と巡り合い、「さきがけ」とその手先である牛河の追及を振り切って、手に手をとって異界(青豆には「1Q84年」、天吾には「猫の街」)から脱出を果たすとの展開は、ラブ・ストーリーとしてはそれなりに完結しているようです。

しかし、「暴力の問題」はまだ潜在的にしか提示されていません。そもそも青豆は、「正義」のためとはいえ処刑という暴力をふるっていた者であったわけですし、「1Q84年」からの脱出の際でも、タマルによる牛河の殺害という暴力が必要とされました。リトル・ピープルが牛河の毛髪を織り込んだ空気さなぎを紡ぎ出したことは、それらと無縁ではないのでしょう。

また、「再生」を含む「親子の問題」は示唆されるにとどまっているようです。(そもそも、天吾の父親であろうNHK集金人の意味がよく理解できていません・・)。リトル・ピープルの力の及ばないところで産みたいと、青豆が強く望む「小さきもの」が、両親の何を受け継ぐのか、2人はどのような親となるのか、明快に書いて欲しいものです。

かつて、「原理主義やある種の神話性に対抗する物語を作ることが作家の役割である」と語った村上さんが、このシリーズをどのようなパワフルな物語に仕上げるのか、期待は大きいのです。もちろん、読者としては最初から最後まで「Book3」にも惹き込まれたのですよ。^^

2010/6読了