りぼんの読書ノート

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世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

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村上春樹さんの4作めの長編です。初読の時はめちゃくちゃ面白く感じ「村上さんの最高傑作」と信じていたのですが、再読してみると、それほど物語に引きずり込まれる感覚を味わえませんでした。「ファンタジー仕立ての展開」が、今では新鮮味を失ってしまったのかもしれません。

しかし、「自己の内面探求」を決意して終わるエンディングの大迫力は健在です。村上さんは本書を「自伝的な小説」と述べていますが、まさに「作家・村上春樹」が誕生するに際しての内面的な葛藤がそのまま吐露されているかのような、激しい決意を表明した小説なのです。

話を急ぎすぎました。世界を終わらせる力を持った博士の大発明を巡って、計算士、記号士、やみくろらが跳梁する、SF的な「ハードボイルド・ワンダーランド」と、一角獣の群れが棲息する、壁に囲まれた街で静かに進行するファンタジー的な「世界の終わり」の2つの物語が交互に進行します。

やがて後者の物語は、前者の主人公の閉ざされた内面世界であることがわかってきます。しかも、です。大冒険活劇としてはじまった前者の物語が静謐なラストに収斂していき、静的であったはずの後者の物語が、圧力が沸騰点に達したかのように動き出していくという展開が素晴らしい。転換点となる、2つの世界で一角獣の頭骨が輝く美しい情景は、『1Q84』で青豆と天吾が同時に2つの月を仰ぎ見る場面を思わせてくれるます。

やはり村上さんを語るには外せない代表作品ですし、多少の失望感はあったとはいえ、再読してよかったと思います。

2009/9再読