りぼんの読書ノート

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告白(湊かなえ)

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少年犯罪によって我が子を校内で亡くした女性教師が、犯人の2人の少年に復讐を果たす物語ですね。しかも、それぞれの少年たちに、最も近しい存在である母親を自らの手で殺害させるという残虐な方法で・・。その顛末が、時系列を追っての関係者の独白というスタイルで描かれます。本当にこの本が「本屋大賞」でいいのでしょうか。

もっとも「自らの手で」というあたりは、かなり偶然の結果。女性教師の考えた復讐は、少年たちの牛乳にHVI患者の血液を混ぜて飲ませ、発病するかどうかは神の手に委ねるというものだったのですから。

しかし、この事実を少年たち本人のみならず、クラス全員に知らせたことから波及効果が現れます。ひとりの少年は不登校になり、後任の「熱血先生」の自己顕示的で不適切な行動によって、病んだ精神がさらに追い詰められていく。もうひとりの少年は、クラス内でのイジメこそ切り抜けたものの、ひとりよがりが昂じて次の犯罪に手を染めていくのです。

少年犯罪は大きな問題ですが、「自分が特別な人間」で「他人とは違う」という感覚は精神が社会化していく思春期過程では、ごく普通のこと。そんな、肥大化した自己意識を自然に矯正するのが、社会と家族の役割ですけど、そのシステムが毀損している怖さは伝わります。なんといっても、トリガーを引くのが教師自身なんですから。しかし、本書の反ヒューマニズム性を取り上げることには文学的な意味はないのでしょうから、そこは評価するところではありませんね。レビューしにくい本ではありました。

2009/9