りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

神様がくれた指(佐藤多佳子)

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ちょっと変わった人情ビカレスク小説です。天才的なスリ師ながら人情味に溢れ、兄妹同然に育った幼馴染の咲子をかけがえのない存在と思いながらも、彼女の愛に応えられないでいるマッキーこと辻政夫。

マッキーが出所した日に目撃した少年スリ集団を追って、逆に怪我を負わされたときに助けてくれたのが、弁護士一家の落ちコボレで今は女装でのタロット占いをなりわいとしているマルチェラこと昼間薫。

この2人の偶然の出逢いから物語は始まります。少年スリ集団に「イヤな感じ」を持って彼らを探し出そうとするマッキーと、マルチェラのタロット占いに「救い」を求めようとする、思い詰めた少女。なんら関係なさそうな2人の行動が、さらなる偶然の出逢いを生んで・・。

「スリ」のテクニックがおもしろかったですね。この種の小説では、浅田次郎さんの天切り松闇がたりが素晴らしい出来栄えですが、そちらは個人の天才ぶりを描いているのに対し、こちらはテクニックの描写がリアル。臨場感や緊張感までしっかり伝えてくれるあたりは、さすが一瞬の風になれの作者。「ビカレスクロマン」の主人公に親近感を覚えるのは、ちょっとした「非日常体験」でしょうか。

2009/9