りぼんの読書ノート

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小さな命が呼ぶとき(ジータ・アナンド)

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ピューリッツァー章受賞記者による、実話ドラマです。ハーバード大学院を卒業して高給のコンサルティング会社に就職し、愛する女性とも結ばれ、順風満帆のキャリアを踏み出したジョンの生活が一転してしまいます。幼い娘と息子が、ポンペ病という難病にかかっていて余命わずかと宣告されてしまうのです。患者数が少ないために製薬会社が新薬開発を行なわないので、治療法も特効薬もありません。しかし、ジョンは諦めないのです。薬がないのなら、自ら作ろう!

このあたり、まさに「ロレンツォのオイル」です。体内の不要物を分解する酵素が作れないために徐々に体機能を失っていき、やがては死に至る遺伝性の病気であることまでそっくりです。でも、ジョンは化学者ではなく、経済コンサルタントにすぎません。では彼はどうしたのか。なんとジョンは、寄付金を集めて研究機関を支援する財団を設立し、さらには会社を辞めて科学者と組んで、自らバイオテクノロジー会社を立ち上げてしまうのです。

しかし新薬がすぐにできるはずもなく、幼い子どもたちは日に日に弱っていきます。しかも「難病者の親」という立場と「新薬ベンチャー会社のCEO」との立場が、二律背反で両立しないと指摘するベンチャーファンドから見放されそうになって挫折寸前に・・。果たして、夫婦の願いは叶うのでしょうか。

本書は基本的にはヒューマン・ドラマなのですが、アメリカのベンチャービジネスの実例も知ることができます。見込みがありそうな研究に対してベンチャーファンドから金を募り、その目処がつきそうになった時点で、大会社に高く売る仕組み。

ジョンが行なったのはまさにそういうことであり、彼が巨利を得たのは立ち上げた会社を大会社に売った時点です。しかも新薬を完成させたのは大会社がもともと行なっていた研究開発であり、ジョンが立ち上げた会社の技術は最終的には使われなかったんですね。

ハーバードを出たばかりの新米エコノミストでも、目先が利いて、事業内容を実体以上に見せて売り抜くテクニックがあれば儲けられる仕組みは、詐欺とまではいいませんが、まさに「投機的」です。こんな「アメリカ型経済」を世界標準としてしまってよいのか、そっちのほうが気になりました。

2010/6