りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

輝く断片(シオドア・スタージョン)

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アメリカのSF・幻想小説家として知られる著者の、1941年から1957年にかけて書かれた、ミステリ色の濃い8つの作品を選んで集めた短編集。といっても、通常のミステリとは一味違います。前半の3編には特異な状況が描かれていて、SFもしくは幻想小説といえるものでしょうし、後半の5編は、特異な発想によって描かれた独特の雰囲気を醸し出している作品です。

「取替え子」赤ちゃんに愛情を注がないと。取替え子が現れて親に苦労をかけるのです。でも、そのままの姿を愛してくれる人がいると、取替え子は本当の赤ちゃんになれるんです。

「ミドリザルとの情事」緑色に塗られた猿は仲間からイジメにあって殺されてしまうそうです。集団と異なるとイジメられる。でもこの作品はシモネタですか? それとも人類滅亡の序曲?

「旅する巌」どうしようもないクズ野郎が万人を感動させる素晴らしい小説を書けたのは、事故によって超先端文明から地球に落下した最終兵器のせい? 果たして最終兵器とは?

「君微笑めば」自分は超人とでも言い出しそうな慢心した男が集めていたのは、完全殺人の記録でした。何をされても笑っているだけのぼんくらの旧友に、自慢げに披露したのですが・・。

「ニュースの時間です」全てのニュースを毎日欠かさずチェックする平凡なサラリーマンが妻によって新聞もテレビもラジオも奪われると、文字も言葉も理解できなくなってしまいます。

「マエストロを殺せ」天才ラッチを殺したのに、彼が率いていたバンドの音楽の中にラッチは生きている。いったいどうしたらラッチを完全に殺すことができるのでしょう?

「ルウェリンの犯罪」何一つ悪いことができない無垢な男が、唯一犯していた罪が未婚の同棲。でも実は女の策略で結婚させられていたことを知り、自分が自分であるために罪を犯そうと決意するのですが・・。オー・ヘンリーをブラックにしたような人間喜劇。

「輝く断片」雨の夜に瀕死の少女を拾った孤独な男は、彼女を自宅へ連れ帰り、自力で手当てを試みるのですが・・。

普通の社会からはじき出されている「敗者」がひとたび暴走を始めると、サイコ・サスペンスが起こるのでしょうか。アメリカで頻発する銃乱射事件や、日本での無差別殺傷事件などを見ると、スタージョンの発想は、残念ながら「時代を先取り」していたのかもしれません。読む前には「この作者とは相性が悪いのでは?」とも思いましたが、意外とおもしろかったですね。姉妹巻の『不思議のひと揺れ』も読んでみましょう。

2010/6