りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

幽霊たち(ポール・オースター)

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ガラスの街に続く、「ニューヨーク三部作」の第2作。前作に続いて、「都会の探偵」というモチーフが登場します。

私立探偵ブルーは、ホワイト氏から、ブラックなる男を見張るようにとの依頼を受けます。ホワイト氏が用意した真向かいの部屋に住み、ブラック氏を見張り続けるブルーでしたが、彼はただ、毎日何かを書いたり読んだりしているだけで、何事も起こりません。やがて、不安と焦燥に駆られたブルーは、空想の世界にさまよい出ていくのですが、ついには自ら乗り出して、ブラック氏に接触を試みるに至ります。果たして、ブラック氏の正体は・・?

そんな展開よりも、他者を見張ることによって自己のアイデンティティが揺らいでくる様子、そもそも個人のアイデンティティとは過去の記憶の総体にすぎないものであることなどが、本書のメイン・テーマですね。追い求めれば追い求めるほどに、アイデンティティの存在は希薄になっていくのです。最後には芯が残るのか、それとも何も残らないのか。

作中に、ホイットマンとソローの作品が登場します。どちらも都会を捨てた詩人であり作家なのですが、『ガラスの街』の住民にとっては2人の行動は参考にはなりません。それとも、ブルーは最後にはニューヨークを出ていったのでしょうか。著者はエンディングをオープンにしたままなのですが・・。

2010/6読了