りぼんの読書ノート

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野生の探偵たち(ロベルト・ボラーニョ)

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1975年の大晦日、メキシコで前衛詩グループを率いるアルトゥーロ・ベラーノとウリセス・リマは、1920年代に実在したとされる謎の女流詩人セサレアの足跡を追って、メキシコ北部のソノラ砂漠に旅立ちますが、それは20年に渡る世界各地の放浪の始まりでした。

ここでチリ出身の詩人とされているべラーノは、著者の分身です。本書の内容は「半自伝的」のようですが、驚くべきはその叙述スタイル。2人の主人公の動向は、前衛詩人グループ「はらわたリアリズム」に加わった学生の日記と、彼らと関わりを持ったとされる、なんと総勢53人もの人物へのインタビューによってうかがい知ることができるのです。

インタビューを受けるのは、メキシコの詩人グループの仲間たちや、作家、批評家、編集者、密航者、弁護士、大学教授、ノーベル賞作家の秘書、トロツキーの曾孫など、世界各地の実在・架空の人物たち。その中には通話の登場人物も含まれているという凝りよう。

彼らが自分たちの人生を好き勝手に語るだけであり、主人公たちの動向は断片的にしか提供されません。主人公たちの人物像となると、それこそインタビューを受けた人々の「主観」に基づいて勝手に語られるだけですから、なかなか焦点が合ってこないんです。

そもそも、インタビュアーは誰なのか?
主人公たちの放浪のきっかけとなった、ソノラ砂漠での出来事とは?

おそらく「探偵」とは読者のことなのでしょう。読者は膨大な断片的な手がかりの中から2人の足跡をたどり、2人の人物像を推理する探偵となることを求められているように思えます。

ただし、小説の焦点は「主人公=作者自身」に合わせられているのではなさそうです。眼を凝らして見ても、そこには何の虚像も浮かび上がってこないんです。むしろこの小説を通して見えてくるものは「詩人たちが生きた時代」かもしれません。より正しくは「詩人たちの眼を通して見えていた時代」なのでしょうが・・。

2010/7