りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マドンナ・ヴェルデ(海堂尊)

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代理母問題を取り扱ったジーン・ワルツでは、戦闘的産科医であるクール・ウィッチ曾根崎理恵が、実母を自分の代理母して出産するという衝撃的な結末を迎えるのですが、本書はその過程を、理恵の母である山咲みどりの立場から描いた物語。

生殖医療の問題をひとりで全部背負ってしまうかのような理恵のキャラは怜悧に過ぎて、リアリティに欠けるように思えたのですが、それを補完する作品に仕上がっています。海堂さんはこの作品まで視野に入れて、前作をあんなドライな書き方にしたのでしょうか。

平凡に生きてきた女性のみどりが、理恵からの違法な依頼を受ける決め手となったのは、子宮を失うことになる娘に対しての、母親としての愛情からでした。母性愛に満ちた女性であるからこそ、娘の離婚、カルテ偽造、父親からの同意を得ない精子採取、父親の不確定性といった問題が、次々と発覚するたびにうろたえざるを得ません。そのどれもが、親子関係の根源に関わっているのですから。

そしてついに「みどりの母性」は「理恵の論理」と対決するに至ります。今の日本のルールでは「本当の母親は代理母」という強い立場にあることに加えて、理恵の恩師であるマリア・クリニックの院長・茉莉亜先生や、理恵の別れた夫までも味方につけ、みどりは、生まれた子どもを自分の実子として自分の手元で育てることに成功しそうになるのですが・・。

でも、ひとつだけ落とし穴がありました。「みどりの母性」は、対決の相手である娘の理恵に対しても発揮されちゃうんです。母性愛というものは厄介なものです。だからこそ素晴らしいのですけどね。

本書の後日談として、『医学のたまご』というYAミステリがあるそうです。主人公は、中学生になった「曾根崎薫クン」。ここで生まれた双子の赤ちゃんの片割れです。^^

2010/7