りぼんの読書ノート

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月が昇らなかった夜に(ダイ・シージエ)

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1978年の北京。フランスからの女性留学生であった主人公は、映画「ラストエンペラー」の製作会議に通訳として雇われて、歴史学者・唐粱(タン・リー)と出会い、清朝皇室に伝えられた古代語で書かれた仏典にまつわる物語を聞き出します。

ゴビ砂漠に埋もれて消え去った古代のオアシス国家トムシュクの文字で書かれた仏典は、清朝最後の皇帝・溥儀が、満州国の傀儡となるべく日本軍の手によって連れ出された際に自棄的になって、飛行機の上から破り捨てたというのです。女性留学生にとって、何の関係もない話のはずでした。彼女が愛することになった男性がその古代王国と同じ名前を持ち、彼の父親その文書の半片を所持していたことがあると知るまでは・・。

読者は中国建国から文化大革命の際に起きたドラマの世界に引きずり込まれていきます。満州に蟄居させられた親王が、空から降ってきた文書の半片を手に入れて狂喜したこと。その孫娘・蛾(エー)が、フランス人歴史学者ポール・ダンベールと恋に落ち、息子をトムシュクと名づけたこと。ポール・ダンベールは陰謀によって罪を得て、隔離された収容所で強制労働をさせられていること・・。

やがて父親の死を知ったトムシュクは、仏典に記された物語を探して小乗仏教の国々に旅立ち、女性留学生はフランスに戻って、アフリカの人道支援団体で働きはじめますが、物語はそこでは終わりません。10年後、ビルマの寺院である奇跡が起こり、満州では文書の残りの半片が見つけ出されて、挿話が完結するのです。

なんともドラマチックな小説です。バルザックと小さな中国のお針子の主人公であった馬(マー)も、トムシュクの旧友として登場します。

タイトルは、その仏典に書かれていたという短い挿話から取られています。月が昇らなかった夜に山道で足を踏み外しひと束の草を掴んで宙づりになった旅人が、「手を離せ。地面は足のすぐ下だ」との天の声を聞くというのですが・・。

2010/7読了