りぼんの読書ノート

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医学のたまご(海堂尊)

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姉妹作ジーン・ワルツマドンナ・ヴェルデで生まれた双子の片割れで、世界的なゲーム理論学者の父親に引き取られたのが、本書の主人公・曽根崎薫クン。

天才的な両親に似ず、ごく普通の中学生にすぎない薫クンは、ひょんなことから「日本一の天才少年」となって、東城大学医学部で研究することになってしまう。種明かしをすると、天才の選抜をする特別の模擬試験の問題を作ったのがパパで、その内容を事前に知っていたからなんですけどね。

どうやらそこには「大人の事情」が絡んでいるようです。スーパー中学生を加える企画で文部科学省の予算を取り、裏づけのない実験結果を薫クンの名前で三流雑誌に発表させてアリバイ作り。でもノーベル賞候補と言われる大物アメリカ人医学者から、その論文が誤りだと指摘されて大騒ぎに・・。天才少年の座から一気に滑り落ちた薫クンは、全責任を取らされそうになります。パパがメイルで伝えてくれた「パッシブ・フェイズ」で乗り切れるのでしょうか。

海堂さんの他の著作でも触れられる、大学医学部のヒエラルヒーと閉鎖性は、「白い虚塔」の時代から変わっていないようです。医療に関わるさまざまな矛盾が大問題となっている今こそ、そこに手をいれるチャンスのはずですが、感性の鈍い当事者は、問題を認識してもいないのでしょうか。小説を通じて一般社会に問題を訴える著者の試みには、実を結んで欲しいものですが・・。

10数年後の田口先生は、東城大の教授になっているんですね。パパのメールにいつも食事の内容が書かれているのには『マドンナ・ヴェルデ』を読んだ人なら笑えるはずですが、浮世離れしたパパもいい父親になりました。でも祖母の山咲みどりは、どうして正体を隠しているのか・・謎です。

2010/7