りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ある犬の飼い主の一日(サンダー・コラールト)

人生に絶望しかけた中年男性が生きる喜びを取り戻していく1日をつぶさに描いた本書は、コロナ禍に見舞われたオランダで多くの人を慰めたベストセラーとなりました。

 

本好きの中年男ヘンクは、離婚して老犬スフルクと暮らすICUのベテラン看護師。ある朝、運河沿いを散歩中にへばってしまった老犬をすばやく介抱してくれた同世代の女性ミアと出会います。元妻の情事の現場に出くわして以来、恋とは無縁に生きてきたヘンクでしたが、ミアと別れた後で彼女にときめいている自分に驚くのでした。

 

その日は姪ローザの17歳の誕生日。弟夫妻とはうまくいっていませんが、読書好きで率直なローザとは互いに何でも話せる関係が築けています。誕生会の主役であるローザを放置して友人たちとの酒盛りに興じる弟夫婦たちから逃げ出したヘンクは、自分の中に生まれた意外な恋心に戸惑っていることを率直にローザに話します。叔父と姪とはいえ世代の異なる2人が対等に話し合う関係でいることも微笑ましいのですが、ローザはヘンクの背中を押すのです。そして帰りのバスで偶然ヘンクはミアと再会し・・。

 

著者は「作家の使命とは、平凡な事柄に然るべき美しさを与えることである」というアップダイクの言葉をイメージしながら本書を書いたとのこと。もちろんその試みは成功しているのですが、最後にヘンクの愛犬スフルクについて記しておきましょう。表紙の絵を見て思った通り、犬種は大谷選手の愛犬として有名になったコーイケルホンディエです。カモを籠(コーイ)に追いやって捕まえるカモ猟師(コーイケル)の犬(ホンディエ)という名前を持つ、陽気で賢く遊び好きなオランダ原産種の小型犬なんですね。

 

2024/3