りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

その丘が黄金ならば(C・パム・ジャン)

 

19世紀後半、ゴールドラッシュが終わった後のアメリカ西部で、両親を失った後に安住の地を捜して旅をする中国系移民の姉妹の物語が、時代を超えた神話のように描かれていきます。時代設定は「xx62年」などとされ、「スウィートウォーター」という架空の町を除いては地名もいっさい登場しないのです。

 

12歳のルーシーは、周囲に受け入れてもらうことを願う優等生です。11歳のサムは自分の信念を貫き通すために男性として生きることを選びました。数年前に母親を失い、今また父親の死に直面した2人は、はるか西方の海のかなたにあるという故郷を目指して町を出ます。2人が通過するのは幻想と現実が混じり合うような世界なのですが、人種差別やジェンダー差別と無縁の居場所などどこにもありません。しかも父親が語っていた家族の過去には大きな偽りと犯罪が含まれていたのです。

 

2人で始めた旅はやがて、それぞれの居場所を探す旅へと変貌していきます。人種とは、性別とは、土地とは、金とは何かを問い続ける2人は、永遠の探索者なのでしょうか。それとも単なる迷子なのでしょうか。そしてルーシーが最後に望んだものは何なのでしょうか。中国系移民である若い女性作家が紡ぎ出した「新しいウェスタン」は、歴史的現実の中に含まれている矛盾や悲劇を、普遍的な物語として昇華させた感があります。

 

2024/3