りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

僕は、そして僕たちはどう生きるか(梨木香歩)

昨年ジブリ映画のタイトルとなって注目された『君たちはどう生きるか吉野源三郎)』へのオマージュとして、2007年から2009年にかけて連載された作品です。

 

日中戦争の最中に書かれた吉野源三郎作品の主人公と同様に、コペルニクスにちなんで「コペル君」と呼ばれる14歳の少年を、著者が担ぎ出したことには理由があります。それは戦後70年たった2000年代の日本に対する危機感にほかなりません。あまり政治的なことを語らない著者としては珍しく、本書では徴兵制や良心的懲役拒否について多くのページを費やしているのです。

 

少し先走りすぎました。本書はコペル君が体験したある一日の物語。遠い町の大学で教鞭を執る両親と離れて一人暮らしをしているコペル君を訪ねてきたのは染色家の叔父ノボさん。染料にするヨモギを採集する場所を訪ねられたコペル君は、学校へ行くのをやめ、家庭の事情で一人暮らしをしている親友ユージンの家を思い浮かべます、そこは自動車道路建設に反対していたユージンの祖母が屋敷の敷地内にいろんな草花を移してから、町の中の自然林のようになっていたのです。

 

そこでコペル君が出会ったのは、ユージンの1才年上でガールスカウトのショウコ。彼女の先輩で不幸な体験をした後にユージンの森に隠れ住むようになったインジャ。たまたま来日したショウコの母の友人の息子でオーストラリア人のマーク。彼らの間で交わされたさまざまな会話の中で、コペル君はユージンが不登校となった理由を知り、意識しないまま自分が犯していた罪に気付いてしまうのですが・・。

 

教師のハラスメントや性暴力という現在進行中の問題や、近い未来に再現されかねない戦争や徴兵制という過去の問題を正面から取り上げた本書は、文学的に優れた作品とは言い難いのでしょう。しかしその分、著者の問題意識はストレートに伝わってきます。ヤングアダルトの読者には、俯瞰的で論理的な視点を獲得することの必要性は伝わったでしょうか。

 

2024/3