りぼんの読書ノート

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迷うことについて(レベッカ・ソルニット)

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『災害ユートピア』の著者としてしか知りませんでしたが、著作リストを見ると、環境・人権・反戦・芸術など多面的な活動をされている方であることがわかります。「迷子になるためのフィールドガイド」との原題が付けられた本書は、「迷う」という言葉をキーワードとして自らの内面の声を綴ったような作品です。 

 

奇数章にはソルニットの自伝的な要素が含まれています。新大陸にやってきたユダヤ系移民の祖母たちの家族。カリフォルニアで精神病院に投じられた曾祖母と祖母。20歳のころに一緒に廃病院で映画を撮影した恋人。ドラッグで早逝した、美しくて才能があって気まぐれな友人。砂漠に住み砂漠に似ていた、かつて愛した男。厳しかった父親との確執。 

 

すべて「隔たりの青」と名付けられた偶数章には、「迷うこと」の意味に昇華されたアメリカの歴史と文化史に対する考察が含まれます。新大陸で迷い先住民に囚われた初期のヨーロッパ人の探検家たち。カントリーやウェスタン音楽から感じ取れる時間の隔たり。行方知らずとなった絶対の探求者。そして全てを青一色で染め上げたイブ・クラインの作品のように、青色とは視界の限界に見える色であり、水の深みや地平線を染め上げる色であり、無限に対する憧憬の象徴となっていくのです。 

 

本書は、「それがどんなものか知らないものを、どうやって探求しようというのでしょうか」という古代ギリシャの哲学者メノンの問いに対する、著者の回答なのでしょう。未知と出会うためには、まず迷うことが必要なのでしょうから。 

 

2020/5