りぼんの読書ノート

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アルジェリア、シャラ通りの小さな書店(カウテル・アディミ)

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1936年のアルジェで、21歳の若さで書店兼出版社を開き、その後30年以上にわたって多くの優れた文学書を世に出した出版人とはどのような人物なのでしょう。アルジェリア出身でパリ在住の若い女性作家が、エドモン・シャルロという一般にはあまり知られていない人物の事績を掘り起こして、美しい小説に仕上げました。

 

物語は、ひとりの青年リヤドがアルジェを訪れて、もう閉っている古い書店を訪れるところから始まります。その青年は元書店の建物の現在の所有者から、まだ片づけられていない古い書物や書類などを廃棄して、空になった店内を白いペンキで塗ることを依頼されたのです。しかし彼を待っていたものは周辺の商店主たちの大反対であり、彼が見つけたものはシャルロの日記が綴られた手帳だったのです。

 

ほとんど無一文で狭い店舗を借りたシャルロは、そこで本を売るだけでなく、出版事業を始めます。有名な詩人のエッセイに登場する「真の富」という言葉を店名とすることを了承され、2階の寝屋では若い文化人仲間と議論を交わしたことは、友人カミュ(あのカミュです!)の処女作をはじめとする書物や雑誌を出版し、経営は軌道に乗ったかと思えました。

 

しかし第二次大戦時が起こって紙やインクの不足に悩まされ、ヴィシー政権下ではレジスタンスとみなされて投獄されたりする苦難の日々がやってきます。戦勝の喜びもつかの間、戦後は独立紛争が激化する中で拠点をパリに移さざるをえなくなり、やがてアルジェとフランスで多くの文学賞受賞作を生み出した小さな書店兼出版社は閉店。シャルロはフランスで出版業に携わり続けます。書店の方は国立図書館分館として保存されますが、やがて民間に売却されてしまったのでした。はたして元書店の歴史を知ったリヤド青年は・・。

 

シャルロの日記は仮構のようですが、著者は徹底的に資料をあたって彼の人生を再構築したとのこと。書店のショーウインドウに記されているという「読書する一人の人間には二人分の価値がある」の言葉が、本書のテーマを余さずに語っています。

 

2020/10