りぼんの読書ノート

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数学が見つける近道(マーカス・デュ・ソートイ)

素数の音楽』や『シンメトリーの地図帳』で数学への興味を沸かせてくれ、『知の果てへの旅』で現代知識の最前線を、『レンブラントの身震い』でAIの到達点について解説してくれた著者の新刊のテーマは「近道術」でした。膨大な総当たり計算を瞬時にこなすコンピューターができないことは、問題を効率的に解決するための近道を発見することであり、これこそが人間が成し遂げて来たことだというのです。そしておそらく自然界も。

 

著者は、近道を見出すために用いられたさまざまな手法を解説してくれます。パターンを発見すれば予測が可能となり、対数や虚数を用いた計算法は別の世界を見せてくれる。言語は現象や概念の伝達を可能にし、幾何学的な図形や図解はイメージを効率的に伝えてくれる。微分積分は自然界の秘密を物理的に解き明かすために必須のものでした。また統計学や確率やネットワークは、少ないサンプルから全体像や正解を導き出すための近道のようです。

 

その一方で不可能な近道もあることに気を付けなくてはなりません。旅するセールスマン問題、車のトランク問題、学校の時間割問題、数独、晩餐会の最適席順、地図の色塗り、サッカー優勝のゆくえなどが、わかりやすい事例としてあげられています。ただし近道が存在しないという事実が大きな意味を持つこともあり、クレジットカード情報を暗号で守っているのが巨大な素数あることは有名ですね。ただし、量子コンピューターや、生物学的コンピューターがブレイクスルーを成し遂げる可能性は否定できないようです。

 

著者は近道について、「旅を最速で終えるためのものではなく、新たな旅を始めるための踏み石」であると語っています。とうてい理解の及ばない世界のことなのですが、こういう言葉を聞くと冒険心が刺激されてしまいます。

 

2024/1