りぼんの読書ノート

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狙撃手のゲーム(スティーヴン・ハンター)

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『極大射程』で颯爽とデビューしたスナイパー、ボブ・リー・スワガーは、著者と同じ年齢と言う設定であり、この作品では73歳。アイダホの自宅で悠々自適の隠棲中なのですが、そこに1人の女性が訪ねてきます。その女性ジャネットは、2013年にイラクの戦地で息子を射殺したスナイパーを執念で追い続けており、中東で何度も壮絶な体験をしながらも、ついにその男を発見したというのです。 

 

そのシリア人テロリストは「ジューバ・ザ・スナイパー」。ジハド大義のためにアラブ人スナイパーを訓練し、イスラエルで虐殺事件を起こしているものの、モサドでさえ尻尾を捕まえられなかった男。彼が愛用している特殊な銃弾の発注パターンをつきとめたジャネットの熱意に打たれて、ボブはテルアヴィブに向かいます。しかしイスラエル軍の急襲を逃れたジューバは、まさかのアメリカに上陸。いったい彼の次の標的は誰なのでしょう。そしてアメリカ国内で彼を支援するのは、どのような組織・人物なのでしょう。 

 

読者は、天才スナイパー同士の推理を堪能できるはず。ボブが推理するのは、超長距離狙撃のために必要な装備であり、訓練をするために必要な施設の要件であり、突き止めた施設から割り出した狙撃距離や条件など。これを受けたFBIが、コンピューターやドローンや推理を用いてジューバを追い詰めていくのです。一方のジューバは、信頼できない支援者を殺戮して、意外な標的を狙います。もちろん最後は直接対決。 

 

現在のアメリカでもっとも価値の高い標的は誰なのでしょう。リベラルの犯行と見せかけて現大統領を狙うことなのか。それとも狂信的右翼の犯行と見せかけて前大統領を狙うことなのか。いずれにしてもこのような犯行が起こったら、アメリカ国内の混乱と分断は悲惨なものになるのでしょう。しかし、1マイルを超える長距離射撃において、発射から着弾まで5秒もかかるというのです。人がそれほど長い間、確実に動かないと予測できるのは、どのような状況なのか。FBIもボブも盲点だったことを指摘するのはジャネットでした。 

 

著者は、息子の戦死を乗り越えて、さまざまな形でアメリカ軍を支援し続けた実在の女性をモデルにして、ジャネットという女性を造形したとのこと。アメリカの銃保有制度は問題なのですが、西部劇を端緒とするアメリカが舞台の映画や小説が面白いことも事実です。著者やボブのようなストイックな人物だけが銃を保有しているのであれば、まだしもなのですが。 

 

2020/7