りぼんの読書ノート

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財布は踊る(原田ひ香)

次々と持ち主を変える「ルイ・ヴィトンの高級財布」を巡って、お金に踊らされる人たちの姿を描いていく連作小説です。そんな説明だとありがちな趣向に思えてしまいますが、本書はよくできています。『三千円の使いかた(未読)』を大ヒットさせた著者の力量はさすがなものです。

 

始まりは、節約を重ねて月2万円の貯金を貯め、あこがれていたヴィトンの長財布を購入した専業主婦ののみづほでした。しかしその直後、ルーズな夫がカード会社に200万円以上の借金があることが発覚。泣く泣くネットで財布を売り払ったみづほは、生活を立て直すことができるのでしょうか。

 

その財布を買ったのは、大学を中退して居酒屋バイトをしながら、怪しげなFX情報商材の勧誘をしている水野という若い男です。しかし彼もまた、株で失敗した元同級生の野田に騙され、その日の稼ぎを入れたままの財布を盗まれてしまうのでした。正業に就くこともなく一獲千金の夢ばかり追っては、ほかの誰かのカモにされ続けている青年たちはどうなってしまうのでしょう。

 

実はみづほも水野も、お財布アドバイザーとして名前が売れた善財夏実の影響を受けていたのです。しかし夏実もまた詐欺まがいの本しか書けないことで行き詰まっていたのです。なりたかったノンフィクションライターへの転身を試みる夏実が出会ったのは、奨学金返済に苦しむ契約社員の麻衣子と彩でした。風俗に身を落す寸前だった2人にインタビューした夏実は、アドバイスとともに「鉄道の忘れ物市」で買った新品同様のヴィトンの財布をプレゼントするのですが・・。

 

お金の問題は切実ですね。登場人物たちの成功や転落のきっかけになるほどに重要なのですが、正面から小説の題材となりにくいのは「お金は手段」という風潮のせいかもしれません。「お金が目的」と言い切るのは気恥ずかしいものです。ただし、これまでも女性が経済的に自立する物語を書いてきた著者にとっては、タブーでもなんでもないのでしょう。著者は本書の読者に「リボ払いはやめようと、ひとつだけでも覚えて欲しい」と語っていますが・・。

 

2024/1