りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さようなら、ギャングたち(高橋源一郎)

f:id:wakiabc:20211102114604j:plain

1981年に「群像新人長編小説賞」の優秀作となり、著者のデビュー作となったのが本書です。「従来の小説の枠から軽やかに抜け出した」との好意的な評があった一方で、「お手上げ」とか「残り少ない時間の余生が惜しい」という手厳しい選者もいたとのこと。今回読んでみた感想は、後者に賛成。ポストモダン文学の潮流が行き着いたポップ文学が迷い込んだ袋小路なのではないかと思うのです。著者もその後は、本書から少し戻ったところから先に進んだのではないでしょうか。

 

第1部の「中島みゆきソング・ブックを求めて」は読めます。役所からの死亡通知によって殺された娘キャラウェイ。猫のヘンリー4世とともに残された男は、元ギャングの女性と出会い、互いに相手を「中島みゆきソング・ブック」と「さようなら、ギャングたち」と命名して呼び合うのです。

 

言葉を失った者たちが言葉を取り戻そうとする、第2部の「詩の学校」は読むのが苦痛。言葉に関する問いと答えが、ほとんど理解不能なのです。学生運動に関わって拘置されていた期間に一種の失語症を経験したという著者にとっては魂の叫びだったのでしょうが、私には無理でした。

 

第3部「さようなら、ギャングたち」で、ギャングになろうとした男が無意味な死を迎えるという物語性が復活するものの、その時にはもう本書から心が離れてしまっていました。加藤典洋氏の解説に、本書のテーマが「世界との切断それ自体を生きること」とありますが、「そうだったのか」という感じです。誤解なきように付言しておきますが、『官能小説家』とか『「悪」と戦う』などの、2000年以降の著者の作品は好きなのですよ。

 

2021/12