りぼんの読書ノート

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崩れゆく絆(アチェベ)

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1958年。ナイジェリア独立前夜に、当時28歳の著者によって出版された本書は、「アフリカ人の見方でヨーロッパの植民地主義を語った」最初の小説として、「アフリカ文学の古典」となっています。

物語は3部からなります。第1部は、植民地支配前夜の部族社会で最強の戦士として認められていたオコンクウォを中心に描かれる「古き時代」の物語。音楽を愛して借金まみれで死んだ父親を反面教師として極端なマチズムに走り、納屋にヤムイモを貯めるために賢明に働いた男。妻に暴力を振るい、弱者を差別し、呪術に従う姿は戯画的ではあるものの、当時の社会の価値感を象徴する存在です。

ところが、偶発的に殺人を犯してしまったオコンクウォが、しきたり通りに7年間の謹慎生活に入った第2部で、全てが変わってしまいます。白人宣教師が村に住み着くようになり、村の主流派からは無視されながらも、伝統的な部族社会で弱者であった者たちを信者として獲得していくのです。さらにその背後から忍び寄ってくるのは、イギリスの統治機構。そして、謹慎を終えて、白人とキリスト教への敵対勢力の代表的存在となったオコンクウォが、悲劇に見舞われる第3部を迎えます。

宣教師の非寛容さや、強権による植民地主義は、もちろん正当化されるものではありません。しかし、キリスト教徒の両親を持つ著者は、決して、祖国を無垢な被害者として描いているだけではないのです。構造的な弱点を持っていた部族社会が、異質な文明との出会いによって自壊を迎えたとの側面もあったのでしょう。そこで弱点の克服と解消へと向かわなかったことが、現代でもアフリカの独裁政権や部族対立の問題として残されてしまいました。

「アフリカ文学の父」と呼ばれるようになった著者は、2013年3月に亡くなるまで「小説におけるアフリカ人の非人間化」と「現実政治における独裁政治」に反対し続け、多くの人に影響を与えました。「ライオンが自分の歴史家を持つまで、狩の歴史はいつも狩人を賛美する」というアフリカのことわざがお気に入りだったとのことです。

2014/8