りぼんの読書ノート

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昨日までの世界(ジャレド・ダイアモンド)

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サブタイトルは「文明の源流と人類の未来」。銃・病原菌・鉄の著者が、「人類にふさわしい社会」を模索した作品です。

ヨーロッパ社会が世界制覇を果たしたのは、些細で偶発的な環境要因の違いでしかなかったと考察した著者は、現在支配的な欧州文明を至上とすることはありません。ホモ・サピエンスの誕生から数えても6万年から10万年の歴史を持つ「昨日までの世界」からも多くを学ぶべきとするのです。そして「昨日」の名残は、ニューギニア、アフリカ、南米などに散在する「伝統的社会の叡智」に見出せるというのです。

著者の考察は、戦争、子育てと高齢者の待遇、危険への対応、宗教、言語、健康、言語、食物など多岐に及びます。まさに生物学や生物地理学を専門とする「理系の人類学者」としての本領発揮なのですが、もちろん無条件に「昨日=善」としているわけではありません。著者の視点はあくまでも、発展史観ではなく生態史観による「公平」にあります。

その結果、「昨日」に学ぶべきとして導き出される結論は、「健康的なパラノイア指向」や、「多言語主義」など。そして「人の自然」に関係する「子どもの教育と高齢者への対応方法」も同様です。どちらも「自然」に直面しなくなった現代社会の大きな問題であって、未開社会のほうが上手に対処していたというのも自然な結論なのでしょう。健康のためには「塩分摂取の削減」が必要というのは当然ですね。

ファースト・コンタクト以来、あまりにも急速な「現代化」を経験した諸部族のほうに、肥満や家族関係の崩壊など西欧化が内包する問題が大きく発現してしまっているとの指摘には頷けますが、悲しいことです。

2014/8